小児鍼×鍼灸
■赤ちゃん夜泣きで困ったな~~
大切に育てている赤ちゃんが、
「最近、夜泣きがひどくて…」
「おっぱいを飲ませても、すぐ吐いちゃって…」
「しょっちゅうご機嫌ななめで…」
「かんしゃくがひどくて…」
とか、あるいは小学校に上がったのに「おねしょが治らなくて…」など、病気なのか病気じゃないのかわからない子供独特の不調に困っている親御さんは少なくありません。
■小児鍼とは
子供の疾患に特化した鍼治療法で、古くは江戸時代にその記述があります。
大阪を中心として、明治から昭和中期にかけて大きく発展しました。大阪には、小児鍼の治療院が多くあった地域に針中野(はりなかの)という地名があり鉄道の駅名にもなっています。
小児鍼の対象年齢は生後一ヶ月の乳児から児童までで、対象疾患はいわゆる「疳(かん)の虫」といわれる夜泣き、夜驚症、かんしゃく、ひきつけや夜尿症(おねしょ)などです。
小児鍼は「疳(かん)の虫」の治療に多く用いられてきたことから「むし針」とも呼ばれています。
小児鍼は、鍼といってもいわゆる刺す針ではありません。形はギターのピックやヘラのような形のもの、爪楊枝を束ねたような形のもの、ギザギザの付いた歯車のような形のものなどがあります。
どれも刺す機能はなく、皮膚表面を摩擦して刺激を与えるためのものです。痛くも怖くもなく、むしろ気持ちがよい刺激といえます。
■小児鍼の生理作用
「疳の虫」の症状が出ているときは、自律神経の一つである交感神経が高ぶっていたり、交感神経と副交感神経のバランスが不安定な状態になっています。
小児鍼は高ぶっている交感神経を鎮静させ脳の充血を抑制したり、副交感神経に働きかけて内臓の血流を高めたりして心身をリラックスさせる作用があることが科学的研究から明らかになってきています。
ちなみに「疳の虫」の治療には、小児鍼のほかにマッサージやお薬があります。お薬では宇津救命丸や樋屋奇応丸、抑肝散、桂枝加竜骨牡蛎湯などがポピュラーです。
■どうして子供にストレスが起きるのか
神経症や自律神経失調症は、ストレスが心や身体に引き起こす症状です。子供は自律神経をはじめ身体のあらゆるところが未熟なので、ストレスを受け止めきれずに心身の変調を容易に起こします。
子供のストレスの原因の多くが親子関係や家庭環境にあると言われています。そのストレスを軽減するには、同時に親のストレスを如何に軽減するかを併せて講じなければなりません。
しかし、精一杯育児をしている親にとって、「子供の不調の原因の多くが親子関係にあります」というのは受け入れがたいことです。
場合によっては、親子関係が悪くなってしまったり、親の方が先に倒れてしまうかもしれません。
子供からすれば、自分の不調が自分の庇護者でもある大好きな親のせいと感じること自体が新たなストレスとなることもあります。
■昔は身体の中に「虫」が住んでいた!?
子供の夜泣き、夜驚症、かんしゃく、ひきつけのことを昔から「疳の虫」と呼んでいます。「疳の虫」は中国にはない日本独特の表現です。
昔の日本の身体文化では、人間の身体には様々な「虫」が住んでいる、そして、極端な感情の変動や病気は「虫」が身体の中で暴れているために起こると考えられていました。
イライラしている人のことを「虫の居所が悪い」なんていう表現は今でもよく用いられます。
子供の夜泣き、夜驚症、かんしゃく、ひきつけなども身体に住んでいる「疳の虫」が暴れることが原因と考えられていました。
現代ではもちろん「疳の虫」の原因が体に住む「虫」とは考えられていません。現代医学では小児神経症とか心身症、自律神経失調症と言われることが多いようです。
■日本の伝統文化「虫封じ」「虫だし」
現在でも「虫封じ」や「虫出し」などを祈願・祈祷をしてくれる寺社は、日本全国にあります。
私の子供のころは、「虫封じの祈祷をしてもらってから夜泣きが治まった」とか「かんしゃくが治まった」という話をよく耳にしました。
「虫封じ」は現在の心理療法に通じるものがあると言えます。心理学的には「虫封じ」は「問題の外在化」と言えます。「疳の虫」という問題の原因を「虫」のせいにして親子から切り離すことにより、親にも子にも不要なプレッシャーを与えない情況を作ることができます。
「虫封じ」の祈祷によって親御さんも気持ちを落ち着けるきっかけを作ることができるかもしれません。子供もそれを敏感に感じ取るでしょう。
そして、そもそも「虫」は架空のモノなので、「虫」に原因を押しつけても誰も困ることはありません。
「虫封じ」は日本の伝統文化に根ざしたとても合理的な心理療法と言えます。
■小児鍼と「虫封じ」
心理的側面を「虫封じ」や育児カウンセリングによりサポートし、親子のメンタルストレスを軽減したうえで、小児鍼の生理学的作用を利用して自律神経のバランスを整えると心身両面からより強力に健康回復を促すことができます。
現在に至ってもこのような伝統的祈祷や治療法が継承されているのは、その中に科学的な検証に耐えうる真実が存在するからに他なりません。
育児のヘルスケアに対する小児鍼の有効性は、今後さらに再認識されていくものと考えられます。
渡邉 勝久 (→渡邉先生の紹介はコチラ!)